暁の交換船

tat__tat2008-08-14

藤原 亮子・小畑 実 歌:昭和18年 7月発売:(ビクター A−4411)
            佐伯 孝夫 作詞:清水 保雄 作曲


戦後60年以上が経過し、戦争にかかわる言葉の多くは一部の研究者などを除き
忘れられた存在となってしまったようですね。


この曲のタイトル、「交換船」もその一つだと思います。
そもそも交換船とは何かと言うと、基本的に戦争状態となると交戦国同士の国交が
断絶されます。つまり相手国に滞在しているビジネスマン・外交官、或いは留学生
などは身辺の安全保障ができなくなるのでお互いの“人質”(でもないけど)を交換
し合うための船、それが交換船という訳です。


ただ国交のない国同士でやり取りするのですから戦争と関係のない第三国が間に入る
形で“仲介”します。
歌のなかでは♪祖国の旗に護られて〜とカッコよく歌われていますがこの交換船は
民間船籍で運航され、国際法上船首部分を黒地に白十字にした上に照明をつけて外部
からもはっきり認識できるようにして攻撃されないよう保護されていたのです。


当時の乗船名簿を見るとのちのちジャニーズ事務所を構えることになるジャニー喜
多川氏の名が見えたりする訳ですが、おそらく海の外から日本を見ていればこの戦争が
無謀な行為だったことは分かっていたと思われます。
交換船で“祖国”の土を踏んで人たちは必ずしも愛国心で戻って来たのではなかったと思います。


まぁこのような船が公海上を行き来するようなそんな時代にだけはならないようにしたいものですね。
ちなみに日米間は昭和17年6月と翌18年9月に行われたので
この曲は2回目の直前に発売されたことになります。

朝顔の唄

tat__tat2008-07-22

関 種子 歌:昭和 7年 7月発売:(コロムビア 26967)
            佐藤 惣之助 作詞:古賀 政男 作曲


各地とも梅雨が明けて今が一番暑い時期ではないでしょうか。


朝顔はもう少し早い時期の花ですが、朝に雫をたたえた花びらを見ると
ホッとするのは私だけではないはず。
いかにも日本の夏を連想しますね。


古賀政男全集にはたいてい収められているこの曲、作曲者自身の
思い出話として“朝顔の便り”が紹介されています
(ここでは割愛しますが)。


ヒットを狙わない良心的な詞曲によるこの作品はホッとするような癒しを
与えてくれますね。佐藤惣之助の詞も作曲者自身が言っていた通り色彩感覚に
優れた幻想的なものを感じます。


もっとも“狙いどうり”ヒットに結びつきませんでしたが・・・・・

幸せさがし

tat__tat2008-06-03

坂口 良子 歌:昭和49年10月発売:(コロムビア P−380)
           岩谷 時子 作詞:渡辺 岳夫 作曲

TBS系で放映されたTVドラマ「家なき子」の主題歌でした。
(「同情するならカネをくれ」とは異なる)


この時間帯は岡崎友紀主演だった「ママはライバル」を30分繰り上げて午後7時
スタートとして、ラブラブライバル・ニセモノご両親と計3連発の後番組でした。


両親を失った少女と共に母親を探す旅に出る、といった内容で全3作とは大きく
コンセプトの違う中身になっています。
後年の主演作品として印象にあるのが花登筺の根性もの「細うで一代記」ですが
この「家なき子」の演技が延長線上にあるような気がします。


ところでこの主題歌、岩谷時子作詞だと聴けばすく判る歌詞ですね。
タイトル通り希望がわいてくるという感じの彼女らしい造りになっていて私は好きです。


曲のほうもテンション高めだけどスピード感を感じさせない出だし。
さらに中間の♪デイバイデイ・人生は〜の前後で変化のある凝ったアレンジが施されて
いて結構難しい曲なのですが比較的うまく歌っています
(さすがに前出のデイバイデイ・・のあたりで少々アヤしくなるけど)。


この後彼女が出した「青い山脈」や「幸福ゆき」などではヘンなクセが出てて
イマイチな仕上がりなのですが、この曲ではレコーディング前に相当レッスンを重ねた
のでしょう。ただ作曲者はいわゆる“劇伴”の作家。どういうレッスンをしたのか興味
あります(ひょっとするとレッスンしたのは別人かもしれませんが・・・)。

グラナダの娘達

tat__tat2008-04-15

淡谷 のり子 歌:昭和11年 9月発売:(コロムビア 29010)
            野村 俊夫 作詞:レイモンド 服部 作曲


以前保利透さんのプログ「レコード狂の詩」で
話題になっていたネットオークションに登場した作詞家野村俊夫氏の遺品と思われる一枚。
(この盤が話題になっていたのではありませんが・・・・)


戦前「ブルースの女王」と呼ばれた淡谷のり子ですが彼女の真骨頂はタンゴ。
洋モノのスタンダードナンバーあたりに素晴らしい歌唱を多く残しています。


この曲はタンゴではなくレーベルにはワルツとありますがワルツ、と言っても社交ダンスで
踊るような優雅なものではなくクイック・ワルツとでも呼べそうなテンポの速いものです。



ギターとピアノが交互に語り合うようなイントロからしてシビレますね。グラナダ
ざくろ」を意味するスペイン南部の都市。アルハンブラ宮殿が有名ですね。
さながらスペインの陽光を連想させる詞と曲、そしてアレンジがまた活きています。


アレンジは仁木他喜雄。流行歌臭のほとんど無い造りが淡谷の歌唱と相まって全体的に
聞きごたえのある作品になっています。

月光仮面は誰でしょう

tat__tat2008-04-10

近藤 圭子 歌:昭和33年 2月発売:(キング AC−10342)
            川内 康範 作詞:小川 寛興 作曲


言うまでもなくTVドラマ草創期を代表する「月光仮面」の主題歌で
先日亡くなられた川内康範氏の“ある意味”代表作とも言えますね。


このときの放送以外にも単発で出たり、あるいは後年アニメにもなりましたから
幅広い世代に知られている曲だと思います。


川内氏と言えばここ一年ぐらいはいわゆる「おふくろさん」騒動で名前が
挙がることが多かったですが個人的に思うにやはり作者に無断で改変したり、が
良くなかったと言えます。


歌の場合もイントロからラストまでが一つのカタチだと考えてますのでそこへ
他の物を挿し込むには“一声”あるべきでしょう。


逆にいろんな事情でカットする場合も同じで例えば“差別用語”が含まれている
「買物ブギ」などそうですね。
この歌の場合、その言葉自体がいわゆる「オチ」にあたるのでそれをカット
してしまうと作品全体意味を成さなくなってしまうのです
(いささか極端かもしれませんが)。
「おふくろさん」の場合もその辺の配慮に欠けていた、ということですね。


ところでレーベル写真は片面の「月光仮面の歌(三船浩:歌、作詞・作曲同じ)」で
番組冒頭(当時放送は月−金)で月光仮面(のおじさん)の影がタイトルバックに
かかるシーンでチラッと流れてました。
しみじみ歌い上げる感じでこちらもなかなかいい曲です。

カフェー祭

tat__tat2008-03-25

松平 晃/淡谷 のり子 歌:昭和 9年 6月発売:(コロムビア 27868)
            久保田 宵二 作詞:江口 夜詩 作曲

春の高校野球も開幕しサクラがほころび始めるこの季節、とりあえず
“カフェー”も「祭」ということで。


松平晃・淡谷のり子という珍しい組み合わせ。
まぁ淡谷のり子はデュエット曲があまりない人で中野忠晴と組んだものが
数枚、あとはこの松平晃と藤山一郎が二曲程度だったと思います。
もっとも彼女の場合組み合わす歌手・歌う曲の兼ね合いが難しかったのかも知れませんが。


実際曲を聴いてみると営業で歌ってますという感じで決して悪くはないけれど
やや平凡な印象です。
♪お茶にしましょかビールにしましょうか〜歌詞を見てみると戦前、特に
昭和初期のカフェーというのがどんな所だったのかスケッチされています。
そのあと「ブラポー」4連呼となるわけですがこの言葉も死語になって久しいですね。
(ぺラボーだったら使ってますが)


全体的な曲のつくりとしては低音の響きに特徴があります。いかにも江口夜詩
という感じです。
この“江口臭”を嫌う「アンチヨシラー」もコレクター間では多いと聞きますが
ワタシ的にはこういうの好きです・・・・

わが恋は燃えぬ

tat__tat2008-02-18

津村 謙 歌/田中 絹代 台詞:昭和24年 2月発売:(キング C−415)
            高橋 掬太郎 作詞:上原 げんと 作曲


昭和歌謡の流れの一つとして“台詞入り歌謡”がありますね。


昭和40年代以降は歌い手自らセリフを語るタイプが主流になりましたが
戦前からのSP時代では映画俳優を起用してセリフを担当していました
ダブルキャスト、なんてゼイタクなのもあります)。


今でしたらいろんなメディアを駆して宣伝していますが当時もっとも有効だったのが
この「流行歌とタイアップ」、つまり主演俳優・女優がレコードに登場するパターン
だったと言えます。


ま、当時は映画俳優がスクリーン以外に露出する機会が極端に少なかったのもこれらの
下地にはあるのです。


この作品は明治期自由民権運動のさなか自立をめざす女性の姿を描いた松竹映画で溝口健二
メガホンをとりました。ほかに水戸光子・菅井一郎らが出演していました。


ところで戦前戦後を通じていわゆる“台詞入り歌謡”が極端に少ない同社ですがやはり歌的
には平凡で「台詞入り」の多かったコロムビア・ポリドールあたりからすると物足りない
内容です。ただ歌った津村謙より台詞の田中絹代を立てているあたり多少は力を入れていたかも
知れません。


しかしこれらの歌を聴くとおよそどんな(内容の)映画だったのか分るのがSP時代の
台詞入り歌謡の特徴であると言えますね。
(映画と関係ない台詞入りもありますが)